性的指向と性的嗜好は別物:さらに性自認まで一気に整理

混同しやすいよね|「誰が好き?」と「何が好き?」と「自分は誰?」は別の話

性に関する言葉は、どれも“好み”っぽく聞こえるので、会話の中で混ざりがちです。

でも実は、見ているポイント(軸)が違います。

  • 性的指向:誰に惹かれる?(相手の方向)
  • 性的嗜好:何に反応する?(スイッチの条件)
  • 性自認:自分はどの性として生きたい/感じている?(自己認識)

この3つを最初に分けておくと、話がスッと整理できます。


性的指向は「どんな相手に恋愛・性的魅力が向くか」

性的指向(sexual orientation)は、恋愛的・性的な魅力が「どんな相手に向きやすいか」という話です。

たとえば、異性愛/同性愛/両性愛/無性愛などは、この“相手の方向”を説明する言葉になります。

ここで大事なのは、性的指向が語るのは「相手(対象)」のことで、
「どんなシチュエーションが好きか」や「何で高まるか」までを全部まとめて言い当てる言葉ではない、という点です。

また、性的指向は性自認(gender identity)とは別の概念として扱われます。
同じ“性”の話でも、「誰に惹かれるか」と「自分はどの性として生きるか」は、別のレイヤーです。


性的嗜好は「何に反応するか/どういう時に高まるか」

性的嗜好は、気持ちが立ち上がる“条件”の話です。

中心は「誰が相手か」より、
「何が刺さるか」
「どういう構図・雰囲気・演出でスイッチが入るか」
に寄っていきます。

嗜好として語られやすい要素は、たとえばこんな感じです。

  • 装い・見た目:制服、スーツ、メイク、仮面、特定の靴
  • 質感・感覚:レザー/ラバーなどの素材感、匂い、音、触感
  • 関係性・演出:支配/服従、ロールプレイ、言葉づかい、距離感

嗜好は複数あっても自然だし、強弱があったり、経験で変化することもあります。
そして嗜好は、相手の性別(=指向)と独立して成立しうるので、同じ指向でも嗜好がまったく違うのは普通に起こります。


性同一性障害・MtF/FtMはちがう?|ICD-11とDSM-5-TRも“自分の性”側の話

ここからは、性的指向や性的嗜好とは別カテゴリで、主に「自分の性のあり方(性自認)」に関わる話です。

ICD-11はWHO(世界保健機関)が策定している「国際疾病分類(International Classification of Diseases)」の第11版で、医療や統計で使われる診断情報の世界標準です。
ICD-11では gender incongruence(性別不合) が扱われ、WHOはそれが「精神および行動の障害」章から外れ、新設の「性の健康に関連する状態」章へ移されたと説明しています。

DSM-5-TRは米国精神医学会(APA)が出しているDSMの「第5版テキスト改訂版」で、本文や参考文献、診断基準やコードなどが更新された版です。
DSM-5-TRで使われる gender dysphoria(性別違和) は、APAが「性別不合に関連する、臨床的に意味のある苦痛や機能障害」と説明していて、「すべてのトランスジェンダー/ジェンダー多様な人が性別違和を経験するわけではない」とも明記しています。

MtF/FtMは診断名というより、移行の方向を表す言い方として使われることが多い言葉です。

  • MtF:出生時に男性と割り当てられた人が、女性として生きる/移行する文脈
  • FtM:出生時に女性と割り当てられた人が、男性として生きる/移行する文脈

迷ったら「矢印」と「スイッチ」と「自己認識」

言葉が増えるほど混乱しやすいけれど、最初の3軸に戻れば大丈夫です。

性的指向は「誰に惹かれるか」。
性的嗜好は「何で高まるか」。
性自認は「自分はどの性として生きるか」。

この3つを分けて考えるだけで、同じ“性の話”でも、会話がぐっと正確になります。