フェティシズム映画としての『スキン 〜あなたに触らせて〜』──異形の身体に映る人間の心
スペイン発のフェティシズム映画『スキン 〜あなたに触らせて〜』(原題:Pieles)は、
“ふつうの見た目”から外れてしまった人たちの物語を描く、76分の群像劇です。
目のない娼婦ローラ、口と肛門が入れ替わっているサマンサ、
自分の脚を「いらない」と感じて人魚になりたがるBIID(身体完全同一性障害)のクリスティアン、顔の片側が大きく変形しているアナと、その顔に強く欲情する恋人エルネスト。
登場人物たちはみな、「見た目」のせいで家族や社会から拒絶され、
ときには見世物のように扱われてきた人たちです。
観客はまず、そのショッキングな外見と、パステルカラーの悪夢のような世界に引き込まれます。
けれどこのフェティシズム映画が本当に描いているのは、
身体そのものではなく、それを見つめる人間の心と欲望です。
異形の身体は、「私たちの心の底」に潜む好奇心や性癖、不安を映す鏡として置かれています。



「好きなのは私? それとも、この“顔”?」──フェチと“人としての私”
フェティシズム映画として『スキン』を象徴するのが、アナとエルネストの関係です。
アナは、顔の半分が大きく変形している女性。
エルネストは、その顔に強く惹かれ、写真を集め、性的な興奮を覚えます。
外から見ると「フェチ持ちの男と、異形の恋人」という組み合わせですが、
二人のあいだには、もっと切実な問いがあります。
「あなたが好きなのは、私?それとも、この“顔”そのもの?」
ここには、フェティシズム映画ならではのジレンマがはっきり出ています。
- 特定の身体の特徴に惹かれる気持ちは、たしかに存在する
- ただ、その欲望が行きすぎると、
相手を“ひとりの人間”ではなく、“欲望を消費するための物”のように扱ってしまう危険がある
『スキン』に登場する人たちは、周囲からずっと
「気持ち悪い」「変な見た目」「面白い」と決めつけられてきました。
それでも物語の中で少しずつ、
「自分の身体をどう見るか、どう生きるかを決めるのは、他人ではなく自分だ」
と感じ始めていきます。
つまり、他人のフェチや偏見に振り回されるだけではなく、自分の身体の受け止め方を自分の手に取り戻そうとしている人物たちなのです。

触られたくない身体と、触れたい気持ち──フェティシズム映画が描く「距離」
『スキン』には、「触れたい」「触られたくない」という感情のすれ違いがたくさん出てきます。
一方的に触られてきた人たち
目のない娼婦ローラは、子どもの頃からずっと、
好奇心と悪意の入り混じった「触る側」の大人たちに傷つけられてきた人物として描かれます。
彼女にとって「触られること」は、愛情ではなく暴力に近いものです。
サマンサは、外見のせで笑いものにされ、
SNSに自撮りを上げても「不快だ」「わいせつだ」と削除されてしまいます。
彼女の身体は、いつも「他人の判断」によって扱われてきました。
それでも、誰かに触れたい/触れられたい
そんな彼女たちにも、
- 誰かとちゃんと向き合いたい
- 自分から「触れたい」と手を伸ばしたい
という気持ちが、少しずつ芽生えていきます。
ここがフェティシズム映画としての『スキン』の面白いところで、
“一方的に触る/触られる”関係から、
“お互いに同意して触れ合う”関係へと、少しだけ形が変わっていく過程が描かれます。
フェティシズムとは、突き詰めれば“距離”に関する欲望です。
- 遠くから見ているだけでは物足りず、近づきたくなる
- もっと近づくと、今度は「ここから先は怖い」「ここまでなら大丈夫」と感じる
『スキン』は、その揺れを「触れる/触られる」という行為を通して見せていきます。
異形の身体を使ったフェティシズム映画でありながら、
同時に「人と人がどこまで近づけるのか」を描く、かなり真面目な人間ドラマでもあるのです。


「変態的な映画」を超えて──自分の中の欲望と向き合う一本
『スキン 〜あなたに触らせて〜』は、ビジュアルだけ見ると
「フェティシズム映画」「変態映画」といったラベルを貼りたくなる作品です。
ですが、じっくり見ていくと問いかけられるのは、むしろ観客の側です。
- 自分はなぜ、“ふつうではない身体”から目を離せないのか
- それは理解したいからなのか、ただ「面白いもの」として消費したいだけなのか
- 誰かの身体を、きちんと「ひとりの人」として見ているだろうか
このフェティシズム映画を観ることは、
自分の中の欲望や好奇心のかたちを、そっと覗き込むことでもあります。
ショッキングなシーンやきつい描写も多いので、
万人向けの「癒やし映画」ではまったくありません。
それでも、異形の身体に映った人間の心を、真面目に見つめたい人には、
一度ゆっくり向き合ってみてほしい一本です。






















